新人のスタッフが、現場のあとでよく言う感想があります。
「思っていたより体力を使う仕事ですね」
遺品整理というと、片づけの仕事というイメージを持つ人も多いと思います。たしかに作業としての大きなくくりは片づけです。
ただ実際の現場では、重い家具や家電を運びます。エレベーターのない建物では、5階から家具を降ろすために階段を何度も往復することもあります。
一日現場に入ると、かなり体を使う仕事です。
特に夏の現場は大変です。エアコンが止まった部屋で作業をすることもありますし、室内温度が30℃を軽く超える日もあります。35℃近くになると、ふき出した汗が止まらないような暑さです。
そんな日は、こまめに休憩を取りながら作業を進めます。クーラーボックスにスタッフ全員分のペットボトルと、塩分タブレットを入れて玄関に置くことも多いです。ありがたいことに、お客様から飲み物や軽食を差し入れていただく現場も少なくありません。

確かに体力仕事ではありますが、ただ力任せに動けばいいわけではありません。作業スピードと体調管理のバランスが大切になります。現場はチームで動いているので、誰か一人が体調を崩すと全体に影響しますから。
真夏の現場では特にその意識が強くなります。実際に、これまで熱中症で途中離脱したスタッフが出た現場もありました。それでもこの10年で2名ほどでしたが。そういう経験を重ねる中で、水分補給や休憩のタイミングも、現場ごとに気を配るようになっていきます。
新人が現場で驚くのは、体力のことだけではありません。もう一つ、現場に入って初めて気づくことがあります。
それは、物品の仕分けの細かさです。
遺品整理というと、家の中の物をまとめて片づけて運び出す仕事だと思われることがあります。実際には、それだけではありません。リサイクルするために、物を細かく分けていきます。
紙類、金属、小型家電、衣類、プラスチック製品。見た目は同じような物でも、素材や種類によって分け方が違います。自治体のルールやリサイクルの仕組みも関係してくるので、最初は戸惑う新人も多いです。
「こんなに細かく分けるんですね」
現場でよく聞く言葉です。

遺品整理の仕事は、ただ物を運び出す作業ではありません。できるだけリサイクルできるように分別し、使える物はリユースに回すこともあります。そうすることで、処理される物を減らし、ゴミや廃棄物の量を減らし、また、次の人に使ってもらえる物をつないでいくこともできます。
この仕分け作業は、地味ですがとても大事な工程です。現場を重ねるうちに、スタッフは自然と素材や分類を覚えていきます。どこまで分けるか、どう運ぶか、どの順番で進めるか。そうした判断も、経験の中で身についていきます。
現場では、物の量の多さに驚くことも少なくありません。
一人で暮らしていた方の家でも、食器や衣類、本、日用品など、想像以上に多くの物が残っています。長い年月の中で少しずつ増えてきた物が、家の中のあちこちにしまわれています。
押し入れやクローゼットを開けると、箱や袋がきれいに並んでいることもあります。季節ごとに分けて保管された衣類や、使いかけの生活用品などを見ると、その家での暮らしぶりが自然と想像できることもあります。
新人のスタッフは、最初は目の前の作業をこなすことに精一杯です。家具を運び、物を分け、袋にまとめていきます。作業に追われているうちは、物の意味まで考える余裕はあまりありません。
ただ、現場を重ねていくうちに、この仕事の見え方が少しずつ変わっていきます。
家の中に残っている物には、その人が暮らしてきた時間があります。長く使われてきた道具や、丁寧に保管されていた写真などを見ると、ただの物ではないと感じることもあります。
そのため私たちは、物の扱い方にも気を配ります。急いで作業を進める場面でも、乱暴に扱うことはありません。一つひとつ確認しながら、丁寧に進めていくことを大切にしています。
遺品整理の仕事は、体力も使いますし、細かい作業も多く、判断を求められる場面もあります。決して楽な仕事ではありません。
それでも現場を終えたあと、部屋の空気が少し変わる瞬間があります。物が片づき、空間が整うことで、その家の時間が静かに区切られるような感覚があります。
その瞬間に立ち会えることも、この仕事を続けている理由の一つなのだと思います。
言うまでもないことですが、現場では作業の段取りは、とても重要です。
家の中にある物をただ運び出すだけでは、作業はうまく進みません。どこから手をつけるか、何を先に運び出すか、仕分けをどこで行うか。そうした順番を考えながら作業を進めていきます。

例えば、大きな家具を先に出さないと通路が確保できないこともあります。逆に、小さな物から片づけたほうが作業しやすい現場もあります。家の広さや間取り、物の量によって進め方は変わります。
新人のスタッフは、最初この段取りに戸惑うことが多いです。どこから始めればいいのか分からず、手が止まってしまうこともあります。
ただ、現場を重ねていくうちに、少しずつ全体の流れが見えるように成長していきます。どこから作業を始めれば効率がいいのか、どの順番で進めると安全か。そうした判断も経験の中で身についていきます。
そして、この仕事は基本的にチームで行います。
家具や家電を運び出す作業は、一人ではできません。重いタンスや冷蔵庫を動かすときには、必ず複数人で声を掛け合いながら作業を進めます。
「せーの」
そんな掛け声をかけながら家具を持ち上げることもあります。
通路が狭い家では、角度を変えながら慎重に運び出します。重さだけでなく、壁や床を傷つけないようにすることも大切だからです。
こうした作業を重ねていくと、自然とチームワークも生まれていきます。誰がどこを担当しているのか、次に何をするのか、言葉にしなくても分かるようになる瞬間があります。
新人のスタッフも、最初は先輩の動きを見ながら仕事を覚えていきます。少しずつ役割を任されるようになり、現場全体の流れが見えるようになっていきます。
最後に一つ、この仕事には特徴があります。
遺品整理の現場には、その人が暮らしてきた時間が残っています。
台所には使っていた食器があり、本棚には本が並んでいます。押し入れには衣類がきれいに畳まれていることもあります。写真や手紙が見つかることもあります。

新人のスタッフは、最初その光景に少し戸惑うことがあります。ただの片づけの仕事とは違うと感じる瞬間があるからです。
現場を重ねるうちに、その空間に対する向き合い方も少しずつ変わっていきます。ただ作業をするのではなく、その家で暮らしてきた人の時間に触れているような感覚になることがあります。
このように遺品整理や家財整理の仕事は、体力も使いますし、季節によっては厳しい現場もあります。この仕事は、華やかな仕事ではありません。現場では汗をかきますし、重い物を運ぶこともあります。細かい仕分けや段取りも必要で、決して簡単な仕事ではありません。
それでも、この仕事を続けているスタッフがいます。現場を終えたあと、きれいになった空間を見ると、不思議とほっとする瞬間があるからです。
誰かが暮らしていた場所を、丁寧に整えて次へ渡していく。その役割を担っていることに、少しだけ誇りを感じることもあります。